「いま日本橋から東海道を歩いています」「へぇー、すごいですね。何人で?」「ひとりですよ。気ままに歩けますから」。
2014年9月11日、ぼくは東京・日本橋から京都・三条大橋をめざして旧東海道を歩きはじめた。
日本橋から三条大橋まで126里余(約492km)ほどある。この距離を江戸の旅人は2週間ぐらいかけて歩いた。一日平均35km、うらやましい健脚で旅をしていた。健康のためにいまは、一日一万歩を歩こう、といわれている。ぼくは60代まで忙しさにかまけて、一万歩にほど遠い生活をしてきた。衰えは足からくる。
雨の日本橋に立って、ほんとうに自分の足で京都まで歩けるだろうか、と不安がよぎった。だが、最初の一歩ふみだすと、それは取越し苦労になる。歩けるうちに歩こう、急いで東海道53次を歩く必要はない。知らない町を寄り道しながら歩いていく……。新たな発見、新たな感動もあった。そんな東海道ひとり旅をまとめてみた。最初は備忘録ていどにと簡単に書いたが、いつしかルポ風な文体に変わってしまった。
(なお文中の1日の歩行距離は現地出発、現地終了で、一歩67cmの歩数計をメモした。寄り道の旅なので、目安である。また『決定版 東海道五十三次ガイド』(講談社文庫)を旅の羅針盤にした。)